何度か繰り返し練習をしていると、一時間などあっという間に過ぎ去った。二人は片
づけを終えた後、ようやくひと休憩を入れるため、舞台の縁に腰を下ろした。

「お疲れさま、リセ」
「いえ、ファルさんこそ」

 一時間通してずっと歌っていたが、ファルさんの声には一片の曇りもなく、艶やかな
アルトの透明な響きは、少し離れた場所にいてもよく通った。

「でも、もうこんな時間ね。そんなにゆっくりもしてられないかな」

 そんなささやきを聞きつけ、俺は少し声を張り上げて彼女に伝える。

「いや、大丈夫ですよ。鍵は二時間ほど借りましたから。好きなだけ休んでいてかまい
ませんよ」

 驚いたような顔をして、それからファルさんは微笑む。

「なら、もう少し、ここで休んでからにしましょう。リセもそれでいい?」
「はい、もちろん」

 リセルシアは頷き、二人はそのまま見つめ合っていた。やがて、ファルさんはリセル
シアから視線を外し、遠くを見つめ呟いた。

「来週、私は初めてプロの舞台に立つ」

 リセルシアや俺に話しかけているわけではないのがなんとなくわかったので、黙った
ままでいた。

「ずっと、それだけを夢見てきた。ずっと……本当に、長い間」

 

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